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1.本研究の背景

 近年、日本では18歳人口の減少に伴い入試倍率の低下が進み、学生を受け入れる大学側は学生確保を最優先とし、様々な入試方式を実施する傾向にある。結果として、各大学が均質な学生の確保を行えず、「教育」が難しくなっている(原[注1]も指摘)。

 このような中、大学教育における教員の教授能力開発(FD、ファカルティ・デベロップメント)が推進され、文部科学省では「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」によって、大学教育の改善に資する種々の取組に対し財政支援を行っている。具体的には、伊藤等[注2]が、「学習の活性化」や「メディアの駆使」などの手法をもちいた、多岐にわたる学問分野での27の授業改善の実践例(改善の方策)と、7つの授業評価に関する教育手法に対する改善事例を挙げている。また、独立行政法人メディア教育センターによる、集合ワークショップ型や集合体験学習型などの、コミュニケーションを核とした教育手法に関する研究[注3]等により各種教育手法の評価が行われてきた。また、東京大学大学院のiiionlineの評価やe-Learning環境構築支援システムexCampusの開発[注4]、高等教育機関におけるIT利用実態調査[注5]といった情報社会特有の情報ネットワーク技術を核とした教育手法に関する研究も進められている。

2.本研究の特色

 前述のように、現在の、特にIT技術を用いた教育システムに関する研究は、図1のような教材のデジタル化・視覚化による教材提供手法や、学生が教材にアクセスするシステムの構築に重きが置かれる傾向にある。

図1
図1 一般的と考えられるITを用いた教育システムの概念図

これに対し、本研究では図2のような講義の場において、教員から多人数学生へ伝達される講義内容の「伝達の質をIT技術を駆使して高める」ことに重きをおく。

図2
図2 本研究の考えるITを用いた教育システムの概念図

なぜなら、特に大学の座学では図3のように、履修人数の大小により講義内容の伝達度合いに差がでしまっていると感じており、この差の原因として、Face to Face といった一対一のコミュニケーションに含まれる親密感やリアル感が、履修人数が大きくなるほど損なわれると仮定するからである。「『理解度・分かりやすさ』情報のやり取りを通して、多人数の座学講義の場で、全ての学生が教員からマンツーマン的な指導を受けているように感じられる」といった、心理面での教育の質の向上を最終目標としている点が、本研究の特色である。

図3
図3 コミュニケーションの密度の差

12.注・参考文献
[注1] 原孝編、安岡高志他著:授業を変えれば大学は変わる、株式会社プレジデント社、pp277、1999.11.9
[注2] 伊藤秀子、大塚雄作著:ガイドブック大学授業の改善、株式会社有斐閣、1999.5.30
[注3] 山地弘起編:NIME研究報告20-2006「FD形態に関する事例検討-教授能力向上の手法の分析と評価に関する研究開発-」、独立行政法人メディア教育センター、2006.3
[注4] 中原淳、西森年寿編:NIME研究報告3-2005「exCampus:eラーニングサイト構築支援ソフトウエアの開発と評価」、独立行政法人メディア教育センター、2005.3
[注5] 吉田文、田口真奈編:NIME研究報告16-2006「高等教育機関におけるIT利用実態調査(2004年度)」、独立行政法人メディア教育センター、2006.3

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